会社に税務上の欠損金がありますが、これも価値になりますか?
法人税では、会社が赤字になった場合、それを10年間繰り越して、将来の利益と通算してくれるという制度があります。
例えば、第1期から第3期まで、赤字だったとします。1期目が6,000万円、2期目が4,000万円、3期目が5,000万円の赤字となり、累計で1億5,000万円にもなりました。
現実にも、最初は建物内装や機械設備に投資したり、研究開発費に使ったりしますし、人件費はすぐに支払いますが、売上はゆっくり上がっていくのが、事業です。そのため、設立当初、もしくは新規事業を始めた当初は、赤字になります。事業が軌道に乗ってくると、売上も上がるようになり、利益は黒字となります。そこで、第4期になり、一気に2億円の黒字になったとします。
現在の法人税率は、約30%なので、そのまま、計算すると、6,000万円(=2億円×30%)の法人税を支払うことになります。
でもよく考えてみると、第1期から第3期まで赤字のときには、法人税が還付されるわけではなく、政府は助けてくれません。黒字になったときだけ、税金を支払えというのは、ちょっと、ひどい話だと思いませんか?そこで、法人税では、過去の赤字と将来の黒字を通算してもよいとしているのです。

つまり、「2億円-1億5,000万円=5,000万円」に、30%の法人税率をかけて、1,500万円の法人税を納めればよいことになります。
6,000万円が、1,500万円に下がったので、4,500万円の節税となります。これを聞くと、よくないことを考える人たちがいます。
それならば、「赤字が貯まった法人を買ってきて、黒字の事業とぶつければ、節税できるのでは?」ということです。
先ほどの会社は、第4期目まで、ずっと赤字でしたが、4,500万円を節税できる箱ではあります。黒字の会社が、これを3,000万円で買えば、1,500万円が自動的に儲かる仕組みです。もちろん、これは誰でも考え付く方法なので、法人税では、下記に当てはまる場合には、会社が持っている過去の赤字の累計が消えてしまうことになっています。
- 事業を止めて休眠していた会社の株を売買したあとに、新規に事業を開始した場合
- 株の売買前に行っていた事業は止めて(止めることが見込まれていて)、売買後の新規事業が、旧事業の売上等のおおむね5倍を越える資金を借り入れた場合
- 株の50%超を保有している個人やその関連会社が、赤字会社に対する債権を買ってきたときに(その債権を債務免除又は現物出資することが見込まれていれば除かれる)、旧事業のおおむね5倍を超える資金を借り入れた場合
- 上記の①から③の場合において、その赤字会社を被合併会社とする適格合併を行うこと、又はその赤字会社の残余財産が確定した場合
- 株の50%超を売買したことで、赤字会社の常務取締役以上の役員がすべて退任して、かつ、赤字会社の社員の20%以上が退職した場合において、新事業が旧事業規模のおおむね5倍を超えることになった場合
何か、難しいことが書かれていますが、要するに、
「事業の売上がほとんどゼロになった会社、または、すでに社員が辞めて休眠に近い状態だった会社を、赤字を使いたい目的だけで買収したら、赤字は消滅させます」
ということなのです。
これを聞くと、「50%超の株式を売買したら、消えてしまうならば、50%だけ、もしくは49%だけを売買すれば、OKですよね」と主張する人がいます。50%や51%の持分は、傀儡で今の社長に持たせたまま、黒字の事業を付けてしまえばよいという安易な考えです。
実際に、やった人たちがいました。IT事業を行っていた会社が、一時はベンチャーキャピタルから出資されたこともあり、5億円もの累積の赤字を持っていました。そこで、この会社の議決権の49%だけを買い、現在の社長を、そのまま在籍させて、その会社が新しい事業を立ち上げたとして、そこに約6億円の売上を計上したのです。
あくまで49%なので、この会社を買収したわけではなく、事業の協力者として出資したと主張しました。新しい事業には、傀儡の社長は関わらなかったので、月額30万円程度の給料しか支払わず、49%を所有した株主が、赤字を使って節税して貯まったお金を会社から借りて、自由に使っていたのです。
このあと税務署は、49%の持分が仮装隠ぺいであり、多額の脱税をしたということで、49%の株を買った人を捕まえました。結局、5億円の赤字は49%を買った時に消滅したとして、5億円に対する30%に重加算税や延滞税などを加えて、2億5,000万円が追徴されて、ほぼ破産状態になりました。
確かに、赤字を使うだけという目的で買収したら、問題だと思います。
ところが、別に赤字を使う目的ではなく、事業を買収したのに、たまたま、先ほどの条件に合致して、消えてしまうこともあるのです。
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