会社の一部の事業だけを売却することができますか?

M&Aというと、会社の売り手にとっては、会社の身売りのように聞こえますし、また会社の買い手にとっては、相手先の会社のすべてをまるまる背負い込む、といったイメージを持たれがちですが、M&Aのすべてが会社全体の譲渡、というわけではありません。ある一事業部門だけを売却するケースもあれば、あくまで会社の株式の一定の持分だけを取得するケースもあります。ここでは、こうした事業の一部の譲渡についてお話ししたいと思います。

会社の一部を譲渡する方法

一部の事業の譲渡

原則として、合併という手続きは会社全体のM&Aであり、特定の一部門だけを合併する、ということはできません。したがって、事業の一部の譲渡というのは合併以外の手法が中心となります。

会社の一部を譲渡する具体的な手法は、特定の事業部門あるいは地域的なエリアに限っての店舗の譲渡などを行う事業譲渡があります。
旧商法の判例では、営業譲渡とは「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条(現在の商法16条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうもの」と定義されています。
何が何やらよく分からない難解な表現ですが、例えば事業として飲食店を譲渡する場合、店舗の物的な資産であるお店の内装や個々の調理器具といった個々の資産を譲渡するのではなく、物的資産および従業員との契約、及び仕入先との契約、といった有形無形の資産をすべてひっくるめて譲渡する、ということです。
通常、飲食店を買収したい場合、こうした形で譲受をしないと、買ったはいいが、翌日から従業員は出勤してこないわ、材料は入ってこないわ、で営業ができなくなってしまいます。買った翌日から、買う前と同様の営業が継続できるよう、すべての資産を譲渡するのが、事業譲渡というわけです。

もちろん、特定の物的資産さえ入手できれば、契約関係は要らない、あとは自分で従業員を雇って仕入をして営業する、という場合は単に店舗だけを買い取ればいいのですが、こういう譲渡は資産譲渡として営業譲渡とは区別して考えるものです。資産譲渡の代表的な手法としては、いわゆる「居抜き」ですね。店舗の物質的資産だけ入手して、あとは買収した側が勝手に営業する、という形です。

営業譲渡は、実質的には資産の譲渡だけでなく、それまでの契約関係も引き継ぎますので、一般的には「のれん」が発生します。すなわち、個々の資産を買収するよりは、お客さんや従業員、取引が付随してくるため、資産の価値よりも少し高い値がつくことになります。「のれん」というのは、まさに暖簾のことであり、営業全体のブランド価値、ということですね。会計的には超過収益力の現在価値、なんていう難しい表現もします。

事業譲渡以外の手法

事業譲渡以外の手法

事業譲渡以外の手法としては、会社の事業の一部を会社分割して当該事業を一個の独立した法人格としたうえで、その会社をM&A、すなわち合併や株式譲渡する手法もあります。

上記の事業譲渡は、特定の会社の中にある事業部門の一部を切り分けして、どこからどこまでを売却するのか意外と手続きが煩雑です。特に、事務所の一部を共用していたり、従業員が兼務していた場合について法的関係性を厳密に定義するのは、困難な部分もあります。
一方、会社分割であれば、切り分ける部門を一つの法人として独立させるため、会社分割自体は手続きは煩雑ですが、分割さえしてしまえば、その後の法的関係性は厳密に定義されますので、買い手としては安心です。したがって、最近では法的整備がなされたこともあって、会社分割が良く使われるようになったと思います。

いずれにしても、会社の一部を譲渡する手法は、買い手側が売り手側の会社全体の譲渡では不採算部門が存在していることで収益性が低すぎるために、買収をためらっていたり、また非常によくあることですが、対象会社の借金が多額なため、その後の経営に資金繰りの不安がある場合などによく使われています。

経営者の皆さん、会社全体としては赤字であったり、借金が多額で債務超過に陥り、これ以上資金繰りは無理だ・・・、ということであったとしても、あきらめる必要はありません。収益性あるいは将来性のある事業を譲渡することができれば、その事業だけでも現金化することもできますし、また従業員の雇用も維持することが可能になります。
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